偶然通りかかった本屋で参考書を買いました。

それは勉強するためのものでした。もっとも私には勉強する気なんて微塵もなく、

それを買ったのは単に、ただ安心したかっただけなのです。

私は勉強した気になって満足げにその袋を抱え、あたかも自分が優等生である彼らの

一員になったかのように自信気に学校の門をくぐりました。

学校での私のクラスは、2番目の校舎の、三階の一番端にあって、私はそこまで一生懸命階段を駆け上がらなければなりませんでした。

階段は長くて、とても辛く、私は幾度も挫折しそうになりながら、果たしてこの階段を上りきったときに何が待っているのだろう。決して喜びではない。

それは私を苦しめるための更なる地獄であると。私はいっそ、この階段の踊り場に寝転ろんで、日がくれるまでここで寝てやろうかとさえ思いました。何度も思ったのです。

しかしとうとう私は一番最後の段を踏み切って、そしてまた長い長い長い廊下を荷物を抱えたまま歩き、自分の教室へたどり着いてしまうのです。

教室はいつもに増してうるさくて、私はまた何度も死にたくなりました。

そこの窓からほいと身を投げて、死んでしまったら彼らはどんなに驚くだろうかと何度も考え頭の中で繰り返しました。

実際にそんなことをする

そう私には死にたいという願望はあっても、それを実行する勇気がなかったのです。

授業は始まりました。顔なじみの、大人が教室に入ってきて、僕たちに何かを説くようです。それが見えました。

授業はずっと続きました。僕は、木の机に頬を付ければぼうっと窓の淵を辿っていました。

彼に叱られようがそんなことはどうでもよかったのです。自分にとってただそこに座っているということだけが、学業を全うすることで、自分にとって、最大の親孝行だったのです。

ふと窓の外に、赤い点々が見えました。点々は空の向こうから降りて来たようでした。転々は次第に増えていって、大きくなって、どんどん近づいてきました。

私にはそれが気球に見えました。いくつもの気球が重なり合いながら、少しずつ少しずつこちらに向かってきたのです。それに気づいたものはいませんでした。僕だけです。

彼は相変わらず授業を続けています。人々はそれに聞き入ったり、或は私のように居眠りをしていました。どーんと音がして、とうとう気球は学校へ衝突しました。

さすがに驚いたのか、何人かは辺りをきょろきょろと見回しましたがそのころにはもう気球はどこかへ消えていて、その代わり校舎のあちこちから叫び声が聞こえました。

うわあーー

ぎゃっぴーーー

やめてくれえー

僕は、怖くなって、駆け出しました。駆け出して、駆け出して、廊下を走って走って、使われていない教室に入って、その掃除用具入れの中に身を潜めたのです。

ふと気づくとぼくは右手に、今日買った、あの参考書の入った袋を持っているのでした。

なぜこれを持ってきたのか僕にはわかりませんでした。そんなものよりも、僕はもっと大事な、財布やら、家の鍵やらが入った鞄を、僕は教室においていったのです。

叫び声は聞こえなくなりました。僕は鞄を取りに行こうと思いました。そしてゆっくりと、掃除用具入れの扉を開けたのです。

学校は静まり返っていました。いえ、ひとえに私のいたその教室だけが静まり返っていたのかもしれませんが。

廊下へ出てもやっぱり誰もいませんでした。さっきの騒ぎは嘘のように、そう、鳥の声しかしませんでした。

私は廊下を歩きました。別に急ぐ必要はないと思ったのです。廊下からは教室の中が見えました。

ふと、目を向けると教室にはなにもいませんでした。

僕は急いで自分の教室まで走りました。やはりそこにも誰もいないのです。さっきまで居眠りをしたり聞いていたりしていた人はみんなどこかへ消えてしまったのです。

ただ僕の鞄はそこにありました。僕は鞄をひったくって、走って、階段までいって、それを駆け下りました。ただひたすらここから逃げたかったのです。僕はただそれだけを考えていました。

ここを逃げたしどこか別のところへいきたいとそう考えたのです。

声が聞こえました。僕はどきっとして、走るのをやめました。

足音を立てないようにゆっくりゆっくりと、歩いて、そして裏口から、僕は降りるそのあいだ誰にも会いませんでした。

学校にはあちこちに、あちこちに、そう、台無しにすら赤いものががくっついていて、僕は怖くて、それらをちょっと盗み見ることもできませんでした。

ただ怖くて、

怖かったんです。とっても怖くて、いまにも自分が、例えば後ろから白い死神が、拳銃を手に構えている。まっくらでまっくらでなにもない地下牢へとつぜん落とされるような、

そんな感じでした。本当なんです。

そこには、たくさんの部屋とたくさんの人と、それから小さな湯船があるだけでした。

たくさん人がいましたから、僕はそこの出入り口のところに、大きな荷物を置いて、たくさんの人と一緒に、湯船が空くのを待っていたのです。

曇り空でした。僕は二度と外へ行こうなどと思わなかったのですが、遠いおじが僕を連れ出して、僕らはドライブにいきました。

大きな車でした。おじの運転はとてもあぶなっかしくて、僕はとても落ち着いてはいられませんでした。

海の方の空を見ると、真っ赤な