365は部屋の隅で靴下のにおいを嗅ぎながらボトルを見ていた。

「なんてくさい靴下なんだろう」

ボトルの頭に載ったペッパーボールが彼の動きに合わせてぐらぐら揺れてその度にボールを手で支える彼の姿が365にはペンギンのように見えた。ボールはまるで奇妙な生き物のようにときどきボトルの頭から膝に飛び移り、足にぶつかってまた頭の上に戻った。ボトルはそんな生き物の動きにはまるで気がつかない様子で白いヨジョウハンを熱心に磨いている。ボトルは暇さえあればペッパーをするかペッパーに使うヨジョウハンの手入れをしていた。また、365はときどき見える清潔そうなボトルの靴下を0124-0202-0202へダイアルして取り寄せたいと思った。


(中略)

「君の言うとおり僕はペッパーがうまくない」

365が言った。

「僕はこの世界で一番ペッパーが下手だ」

そう付け加えたあと、彼が泣くのを堪えているので、壁のペッパーボールを見ながらボトルは後に続く言葉を待った。しかし、予想に反して彼が泣き続けたので彼の方を向いて話すしかなかった。「確かに君はペッパーがうまくない」ボトルがそう言うと365はさらに泣き出した。

ボトルは365が何を伝えたかったのかまるでわからなかったが彼や彼の言葉にまるで興味を持てなかったので彼から離れるために部屋の反対の隅まで歩いていってそこに座った。ボリンプや海老といっしょに壁に飾られたペッパーボールを愛撫しながら愛の言葉を呟いたときちょうど床に落ちているシッカーのテューチャーに気づいてボトルは自分の愛の言葉がシッカーのテューチャーに向けられたものだったのではないかと一瞬考えてぎょっとなった。ボトルはシッカーを愛していたし、彼に対して愛を告白することがあっても不思議ではなかった。しかしこの世界に残されたシッカーの痕跡が床に捨てられた彼のテューチャーだけだと思うと、ボトルは憎悪や嫌悪に近い感情を、彼を愛した自分に抱くのだった。

ボトルは彼の内にあらわれた憎悪を消し去るためにそういうときいつもするように反対側の隅でまだすすり泣いている365を見るのだった。365は大きな両手で顔を覆ったまま声を押し殺しているようだったが、それはボトルにとって、この狭い世界の中では無駄な努力であるとしか思えなかった。なぜなら、ボトルは365の呻きどころか衣擦れさえ聞き取ることができると自分では思っていたからだ(後でよく考えてみればそれは彼自身の衣擦れだった。ボトルの着ていたフンドシの衣擦れが反響して彼の耳に届き、それを365のものと間違えた。365が服を着ていないのはごく自然なことだったので彼はそれを忘れていたのだ)。ボトルは愚かな365を見ることで自分の自分に対する嫌悪感をそのまま365へ向けることができた。

(愚かな〜とはなんですか!?そういうのは差別だと思うし、よくないと思います。あなたに、365の、何がわかるっていうんですか!なにも知らないくせに、自分の勝手な思い込みで人を愚かだなんて決め付けることは、とても愚かで下劣極まりない行為です!!だいいち)