「すもうをやってみようと思うんだ。」
豆腐が言った。
冷蔵庫を開けるたびに白い身体を艶かしく光らせてそいつがわけのわからないことを言うのは日課のようなものだったので、私はいつものように牛乳のパックを取って冷蔵庫の扉を閉めようとした。
「ちょっと、まて、まて!」
豆腐がまだ何か言ったような気がしたが今日の夕飯のことで占められていた私の頭には全く届かなかった。
いい天気だ。
曇り空を見上げながら私は牛乳を飲んだ。コップは使わない。
コップは使わない。
コップは使わない。
コップは使わない。
ふと見ると使われないコップたちが乾いた食器棚の中で泣いている。
かれこれ2,3年だろうか。コップに触れていないのは。
ピクニックへ行こう。ふいにそんな言葉が思考の中に浮かんだかと思うとたちまちあたり一面のソースを絡め取りながら肥大化し
ピクニックへ行くことが人生という道に設けられた跳び越えることのできない壁として私の前に立ちはだかった。
それは脅迫概念として私の心を包み込むとすぐに身体を支配し、物凄い速さで私にピクニックの仕度をさせる。
「うわあやめてくれ」
そう叫んだがすでに私の身体は巨大な旅行鞄を抱えて冷たい外へ飛び出していた。
話は変わるが私はプリンが大の好物である。
プリンがなければピクニックなどとてもいけたものではない。
プリンを捨てるか自分を捨てるかと問われたら私は間違いなく死を選ぶ。
しかし想像するに今抱えているこの巨大な旅行鞄の中身はほとんど蟹缶でありプリンは含まれていない。