0 センスがいい絨毯ですね


1 チンデレラは貴族だった。しかし件の事件をきっかけに家を追い出されてからは大好きなカニを食べる金も時間もなくなってしまった。彼女にとってカニを食べることはそれほど重要ではなかったのだが、カニが手に入らないその理由を思い出すと件の人々への怒りと憎しみを抑えることはとても出来なかった。嘘ですごめんなさい。そんなことはありません。カニはいつでも山に生えていたし、チンデレラはそれをカニ容器が溢れるほど持って帰ることができました。なぜ私がこんな嘘を付いたかといえば、それはみなあの魔法使いの所為の他ならないのです。魔法使いに会ったのは昨日の朝で、うわさに聞いていた通り派手な毛皮に派手なハイヒールというなりで、しかも親切なことに「魔法使い」と書いた大きなプラカードを提げていたので一目見た瞬間すぐそれとわかりました。そんな外見に騙されて気安く声を掛けたのが間違いだったのです。親切な外見からは想像もつかないような恐ろしく巧みな話術ですぐに私の弱みを握ると魔法使いはそれを餌に法外な取引を持ちかけてきました。いえ、あれは取引ではありませんでした。どうしてあれが取引などといえるのでしょう。血も涙もある情人ならば(カニのように)泡を吹いて気絶してしまうようなことを当然のようにベラベラ喋りたて、隙あらば私の弱みを握りつぶしにかかってくる、あれは、魔法使いという皮を被った悪魔、そうでなくとも相当の悪人に違いありません。私は蛇ににらまれた蛙さながら手も足も出せずにただうんうん頷くしかなかったのです。はやくこの場から開放されたいという私の持っていた唯一の願いが叶ったときようやく私は自分の犯した罪に気づきました。私はずいぶん長い間その場所で揺れる春菊を眺めていました。小さなエドワード丘には沢山の春菊が生えていましたがどの春菊も罪を犯した私を攻めるかのように冷たく揺れていました。私はいてもたってもいられず、しかしなにをしたらいいのかわかりませんでした。