この街にはヒーローがいて夜になると悪者を倒しに出かけるのだ。ヒーローの正体は普通の小学生で昼は普通に学校へ通っているけど最近クラスメイトのチサトに正体がばれそうになって自分の宿命と葛藤しているなぜなら彼はヒーローだから。これが普通の小説ならその彼と言うのがつまり僕のことになる手はずなんだけどあらかじめ断っておこうヒーローは僕だ。

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悲しくて悲しくて悲しくてどうしようもないとき僕は転校生のことを考える。夏休みをあけてすぐツトムのクラスに来た黄色い転校生のことだ。あの転校生について知っていることといえば黄色いことぐらいでまだ名前も覚えていない。転校生はほとんど喋らなかったし僕は人の名前を聞き取るのが苦手なのだ。ツトムに聞けばわかったかもしれないけれど怪人にさらわれてここには居なかった。僕が考えるのは転校生の名前と好きな食べ物で、名前はほとんど決まったから好きな食べ物がマンゴーかスパゲッティかでさっきから悩んでる。

本当は泣いたり叫んだり走ったり逃げたりあいつをプチ殺したりしたいんだけどそうするのは虚しいからっていうおじいちゃんの言いつけ通りに僕は泣きも叫びもプチ殺しもせずに壊れた焼却炉の上でおとなしく転校生のことを考える。なぜなら悲しみを忘れるための焼却炉は壊れてしまったしクラスメイトもカブトムシも先生も僕を悲しくさせるしたった一人の友達は今ごろ怪人とバーベキューしてる(から)。

ツトムは学校を吹き飛ばした転校生を憎んでいたけど今はバーベキューに夢中で学校と一緒に吹き飛ばされたクラスメイトやカブトムシや先生のことなんてまるで気にしていないに違いないし僕の事だってたくさんいる友達の一人としか思っていないのだろう。だから僕は転校生のことを考えるしかない。転校生は僕を腹立たせたりするけど悲しくはさせなかったのだ。