「俺のパョンディムがないぞ」
山田太郎のパョンディムがどこにあるのか知らない14人は首を横に振った。太郎は誰も自分のパョンディムを探してくれないので一番近くにいた田中一郎を殴った。「パョンディムがないんだよ!」太郎は情けない声で叫んだ。太郎にとってパョンディムは全てであった。パョンディムのない人生など彼には首の短いキリンのようなものであった。突き飛ばされた一郎は憎々しげに太郎を見上げたが何も言わずにまたAかBかの選択をはじめた。すぐそばで様子を見ていた田中二介は一郎の態度が更に太郎を興奮させるだろうと予想した。「僕のパョンディムをやるよ」しかし二介のその発言は失敗であった。二介も言ったあとで気付いて身構えた。太郎は一郎を突き飛ばしながら叫んだ。「そういう問題じゃなんだ!!」二介のパョンディムが太郎のそれに代わるはずなどなかったのだが、二介はピョローネの値にしか興味がなく、そのことを忘れていた。

太郎の声を無視できなくなった14人は力を合わせて彼をボコボコに痛めつけてからひもで縛って動けなくしたのちまたボコボコに痛めつけて気の済んだ者から持ち場へ戻った。14人の気が済んだ後も太郎は縛られたままで「俺はパョンディムを探したいだけなんだ」とつぶやいた。太郎は鼻すすったりひもを解こうとしたり何か小声で言ったりしていたがそのうち黙って眠り始めた。誰もわざわざひもを解かなかった。

「パョンディムの夢でも見てんだよ」山中ポテチが言った。それを聞いた西山次郎はいつものように怒りを覚えた。次郎はポテチが嫌いだった。人はよく自分とポテチとを比べたがったが、ポテトチップスなんてくだらないものが好きな奴と自分を比べられることには我慢がならなかった。「お前だってポテトチップスの夢見るんだろうが」次郎は誰にも聞かせるつもりはなかったがポテチの耳には届いた。

「何度言ったらわかるんですか?俺、別にポテトチップス好きでもなんでもないんですけど」次郎は皮肉を込めてふうんと言った。彼のデスクに積まれたポテトチップスを目で確認して、こいつは頭がおかしいんじゃないのだろうかと思っていた。

「何なんですか?俺以外ポテトチップス食わないんですか?次郎さんだって食べたことあるでしょ?」ポテチは次郎が今は自分のせいでポテトチップスをまったく食べないことを知っていたのであえて経験について聞いたがそれは無駄だった。次郎は力を込めて「ないよ」と言った。明白な嘘であった。ポテチはその言葉に戸惑った。なぜ次郎が自分に敵意を持っているのかわからなかった。ポテチのデスクには確かにたくさんのポテチが並んでいたが、それと同じぐらいたくさんのシャープペンシルが転がっていたのだ。