あるところにおじいさんとももが暮らしていた。

桃の名前は太郎。唯の桃である。

朝になると(こいつもしかしてしゃべれないんじゃないか)と考えながら桃に「おはよう」と挨拶するのがおじいさんの日課で、それから質素な朝食を取り、山へ向かう。

この山というのが一見(というかどう見ても)山と言うよりも川といった方が正しく、

108人のに聞けば108人が「川だ」と答えることが予想されるほど(もちろんその108人におじいさんが含まれていないことを前提に)その山はまるで川のようだ。

108人と言うのはおじいさんと山(川?)を挟んで反対側にある小さな村の住人達の事だが、おじいさんはそこの住人をえらく嫌っている。そのことは巻末の図2-1を見ていただければすぐにそれとわかるだろうから、ここではあえて追求しないことにしよう。この日(この日と言うのはつまり今日のことである。)もおじいさんは例(22ページ)の如く凶器を右手にぶら下げて川、ではなく山べりまでやってきた。

もちろん山の向こう側には昨日と同じように村の農夫がいるのである。

さて、山と言うのも川と言うのもどちらかにとってひいきになるだろうから中立の立場を取りたい私としてはここでこの山(あるいは川)を山(あるいは川)と呼ぶことに戸惑いを感じる。