この世から全てのうめきちが消えて早50年が経っていた。人々はうめきちのうめの字も忘れ悠々腐乱に生活していた。
そんな荒廃した世界をどうにかすべく、一人のいんげんが立ち上がった。
アンナ・スペクターは農夫を始めて50年になるが、いんげんが立ち上がる姿を見るのはこれが初めてだった。「夢でも見ているのだろう」彼はそう思っていんげんを濁流の中へ放り込んだ。
それこそが記念すべき彼の旅立ちの日であった。
そう、アンナは立ち上がるインゲンにインスピレーションを受け、魔王を倒す旅に出る事を決意したのだ。
アンナは鍬という名の武器を装備し鍋のふたで脇を固め、旅立ちの許可を得るために大統領への謁見を求めた。
「出来ない!?一体どういうことですか!!」ホワイトハウスに彼の咆哮が響く。
「んぅぉっほん。」彼の前で偉そうに皮でできた椅子に腰掛けた男が、顎鬚をしごく。「大統領は今、ハワイに」
「ハワイか…ごくっ」
「ハワイに行きたいと思ってるから忙しいんだな僕」
「僕も忙しいんだよ!」
その言葉が彼を突き動かしたのだった。彼とはそう…顎鬚をたくわえた偉そうな男である!
「私はまほうつかいです。私をパーティーに入れてください」
「!!?」
アンナは一瞬たじろいだがすぐにどうすべきかを考え精神科医を紹介する準備に取り掛かった。
「はい、お目目見せてくださーい。瞬きしないでねー」精神科医ケロベは、慣れた手つきで顎鬚を診察する。
「き、君は私をおちょくっているのかね!?魔法WO使うぞ!」
「使ってみせろや」
「ふっ・・。運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ。」
「…なんだと?」訝しげに眉を寄せたケロベの頬が、ぴくりと痙攣した。
顎鬚の言葉にその場にいた全員が注目した。全員とはつまり、我らがアンナ・スペクターがパーティのメンバーである。
それまで黙っていたアンナがおもむろに口を開いた。
「あのさ、つまりだね。僕が言いたいのは・・」
二人の視線がアンナに向けられる。
気が付くとアンナの手にはインゲンが握られていた。「夢でも見ていたのだろう。」しばらく考えて、アンナはそれを濁流の中に放り込んだ。
(この作品は合作です。)