俺は魔法使い。

俺は魔法使いだから魔法が使える。

俺が願ったり祈ったり念じたりするだけで空から林檎が落ちてくる。

原理は不明。魔法だから。


ジャックは俺の言いなり。

ジャックはアホで一人じゃ何も出来ないから俺の言いなりになるしかない。

俺が名前を呼ぶとすぐ駆けつけるのがジャックの仕事。

試してみようか「ジャック」すぐにこないといらいらするね。

「zタkjク!」こないね。だめだよ。

10分待てば来るかもしれないけど10分前にも試したんだ。

ジャックはこない。道に迷ったか車に轢かれたか生きるのが嫌になったかしらないけどジャックは来ないんだろう。

ジャックが来ないから俺は祈るしかない。

りんごりんごどうかりんごが空から降ってきますように。こないね。

10分前にも試したんだ。

多分ほら、俺が屋内にいるから落ちてきた林檎は全部屋上で林檎パーティー開いてるんじゃないかな。


「アリサ」アリサは俺の恋人。

アリサは認めてないかもしれないけど俺がそう思ってるからそれでいい。

「どうしよっか」

アリサは窓際に立ってる俺のところまで来て足を絡めながら答えた。「にゃー」

困ったよ。このままアリサと密室で二人っきり。

「ビタミンC」

わけのわからないことを言って気を紛らわさないと昂ぶった俺のシャイニングがビートを刻みそうだぜ。冷汗も滲んできた俺の顔をアリサが不安そうに見上げている。そんな顔するなよ馬鹿。かわいいやつめ。

俺はアリサの目から逃げるために机上のせんべいに手を伸ばした。届かないけど。

部屋にある食料はこのシャイニングせんべいだけだから、あまり時間は残されていない。部屋には18匹のネズミがいたけど既に7匹のネズミが消化済みでアリサのことも心配だ。

ここが屋外だったら魔法を使って落ちてきた林檎を食べるけど密室で閉じ込められた俺はせんべいをかじるしかない。手、届かないけど。

「あっアリサ。だめだよそんなところ……あっ」

俺のシャイニングはスタンが限界だ。

「アリサ……そんなふうに舐めたら……あっほらこんなに濡れてるよ」

「にゃー」

俺の指先はむさぼるようにアリサの身体を撫で回した。

「ここだね。ここが気持ち良いんだろう。ふふ……そんなに身悶えて」

「にゃー」

「強がったって無駄だぜ。本当は感じてるんだろう」

「ごろごろ」

「抵抗してるくせにここは正直だな。ちょっと触っただけでこんなに鳴らしやがって」

「どんどん」扉を叩く音だ。

「大丈夫ですか?今扉を開けます」

ジャックの声。震えているのが扉越しでもわかった。

いつからいたのだろう。全部、聞いていたのか?


扉を開けて入ってきたのは田中だった。俺は驚いてしばく呆然としていたし田中は驚いてしばらく俺を見ていた。アリサは毛繕いしていた。

「田中さん、ジャックいなかった?」

「え?知りませんけど」

声を聞いて納得。ジャックにそっくりだ。

「いいや。それより狭いんだけど」「あ、あ、すいません」田中は掃除用具入れから出る。俺は足元のアリサを腕に抱えてネズミだらけの密室から開放された。

教室は薄暗い。照明が付いてないからだ。