登場人物 |
| 最初に出てくるあの人(表記A) |
| 暗がりで座っていたあの人(B) |
| 三番目に出てくるあの人(C) |
Aが歩いている。よく見れば暗がりにBがいる。 | |
Bは座ってたが、Aを見つけて立ち上がった。 | |
A | 誰だ! |
B | たなか。 |
A | (驚いて)田中だと!? |
B | たなか。 |
A | 田中は何をしているんだ。 |
B | 待ち合わせ。 |
A | そう。 |
Bは片腕をあげたりさげたりする。(以下ダンスB) |
A | 田中が待ち合わせる相手のそれは、自分かもしれないと思うが、 果たして、田中が待ち合わせる相手のそれは、自分だろうか。 |
B | おまえじゃない。 |
A | そう。 |
B | あんたは何をしているんだ。 |
A | 人に呼ばれて。 |
B | はっはん。 |
Aは両手を翼のように羽ばたかせる。(以下ダンスA) |
B | 人か。 |
A | ……。 |
B | 本当に人か。 |
A | え? |
B | 人じゃないかもしれない。 |
A | ……。 |
B | 頭に角が生えていなかった。 |
A | 生えてないよ。 |
B | はっはん。 |
A | 第一生えてるからなんだっていうんだ。 |
B | たべるんだぜ。 |
A | えっ、な、なにを。 |
B | ……にんじんさ。 |
A | まて!待ってくれ。心の準備が。 |
B | ……。 |
A | 頭に角が生えているそれが、食べるんだよな。あれを。 そしてそれがたべるあれというのがつまり、あれで。 |
B | にんじん。 |
A | に、にんじん。 |
B | にんじん。 |
A | にんじん!よしてくれ冗談は! にんじんを食べるなんてそんな馬鹿な第一食べられるのかにんじんは。 好きだ結婚してくれ! |
B | えっ、あ、そんなこと急にいわれても。 |
A | ……。 |
B | そんな、困るよ、困る。え、だって、私の何が良いの。 |
A | あそこ。 |
B | え、あそこっていうと。 |
A | 何度も言わせるなよ恥ずかしい。 |
Cが歩いてくる。 |
A・B | 誰だ! |
C | こんなところでなにをしてやがる。 |
CはBの知り合いらしい。 Bは顔を背ける。 |
A | ナニだ。 |
C | なんだナニか。……ナニっていうとアレか。 |
A | いや、アレじゃない方のアレだ。 |
C | アレをアレする方のアレってことか。 |
A | なにを言ってるんだ。 |
C | ナニってアレをアレするナニがアレなのかアレしてるんだよ。 |
A | アレってなんだよ。 |
C | アレってだからアレはナニのことだよ。 |
A | そのアレじゃなくてそのアレじゃないほうの唯一のアレが何か聞いてるんだよ。 |
C | つまりおまえの言っているアレはナニがアレする方のアレじゃなくそのアレを、 なんというかアレするアレってことか。 |
A | お前のいうアレと俺のいうアレが同じアレじゃないってことだな。 最初のアレをアレ1、次のアレをアレ2と呼ぶことにしようぜ。 |
C | わかった。アレ1っていうのはつまりアレ2のことだよな |
A | えっどうしてアレ1がアレ2になるんだ。 |
C | だから、アレがアレ1でその次のアレがアレ2だから、最初にお前が言ったアレ、 つまりアレ1はその前に俺が言った2回目のアレ、 つまりアレ2についてアレしてるわけで、そのアレがアレと等しければ 質問1はアレ1とアレ2が等しい、つまりアレ1がアレ2について 言及しているということに、 |
A | なるほど。……。つまりアレ1がアレ2でアレ2はアレのナニについて アレしたときのアレ1だってことだな。 |
C | え?……まあ、だいたいそんなかんじだ。 |
A | ということは、アレ1はアレ1と等しいわけだ。 |
C | うん、そう。アレ1のアレ1はアレ2のアレ1と等しい。 |
A | えっまてよおまえのいってるアレ1っていうのは、さっきのアレについての アレ1、つまり最初のアレじゃなくて、さっきじゃないアレについてのアレ1、 つまり最初のアレを指すケースも可能なのか? |
C | え、あ、ま、まあ。そうだな。 |
A | ってことはさっきのアレやそのまえのアレは全部……。 ちょっとまて、アレ1がアレ1のアレ1のことならアレ3のアレ1は アレ1のアレ2と等しいってことになる。違うよ。俺が言いたいのは。 |
C | アレ3?アレ3ってなんだよ。 |
A | 三番目のアレだよ。 |
C | あ、そうか。うん。……そうか。 |
A | 俺が言いたいのはアレ2のアレ1がアレ1のアレ2と等しいってことだ。 |
C | え、それはどのアレだ? |
A | おまえのいうアレ1がメタアレNなら、アレ1はアレ8ってことになる。 |
C | アレ8……。アレ8……そ、そう。そうなんだ。ふーん。 |
A | それでしかもアレ2のアレ1がアレ1のアレ1だからアレ1アレは アレ2のアレ1だ。 |
C | そうだな。 だからアレ3のアレ1はアレ1のアレ2、つまりナニがアレのアレに相当する。 アレ3のアレ1がナニということは、 アレ3のアレ1 = アレ3のアレ2 = アレ1のアレ1 = アレ1のアレ2 が成り立つわけだ。 |
A | ……。なるほど。それでアレ1とアレ2のアレはお互いにアレだから、 アレ5のアレ2はアレ3のアレ1のアレ2について言っているわけだよな。 |
C | そうだ。アレ2がアレ1、そしてアレ2のナニがアレアレでソレというわけだ。 |
A | ……。なるほど。ソレソレのアレがアレ2のナニというわけだな。 |
C | そうだ。アレ的に言えばアレアレのアレがソレソレでナニがアレというわけだ。 |
A | はっはっは |
C | はっはっは |
B | なんて卑猥な連中なんだ。寄るな変態野郎! |
C | オセロしませんか。 |
A | いいですね。 |
C | 先手でどうぞ。 |
A | パチッ。 |
C | こんなことしてる場合じゃない。行くぞ田中! |
B | ああ。 |
A | ああ。 |
C | ……。 |
A | ……。 |
B | ……。 |
C | なんで二人。 |
A | 俺も田中だ。 |
B | 私もだ。 |
(沈黙) |
C | なんだって!? |
A | (ダンスAを踊りながら)田中。 |
B | (ダンスBを踊りながら)田中。 |
C | (ダンスCを踊りながら)いったいどっちが……。 |
B | なにどうした。 |
C | どっちの田中がどっちの田中なのかわからん。 |
A | こっちの田中がこっちの田中だ。そして。 |
B | こっちの田中がこっちの田中だ。そして。 |
A | 寂しくて凍えそうな夜は冷え切った心と一緒に僕が君を温めてあげよう。 |
C | ……。 |
B | どっちの田中に用があるんだ。 |
C | どっちかの田中だ。 |
A | 顔は? |
Cは首を横に振る。 |
A | 名前は? |
C | 田中としかわからない。 |
B | おまえ馬鹿じゃないのか。 |
C | 個人情報のアレでいろいろあるんだ。 |
A | 田中の待ち合わせる相手のそれがこの人のそれじゃないのか。 |
B | 違う。 |
A | そう。 |
B | おまえの呼ばれた相手のそれがこの人のそれじゃないのか。 |
A | むしろ田中じゃないのか。 |
B | はっはん? |
A | 田中の待ち合わせる相手のそれが俺で俺の呼ばれた相手のそれが田中だとすれば。 |
B | どうだろう、わからない。 |
A | 相手の顔は? |
B | ……。 |
C | どうした? |
B | 田中としか覚えてない。 |
C | おまえ馬鹿じゃないのか。 |
B | 個人なんとかのアレでいろいろあるんだ。 |
CはダンスCを踊り始める。 |
A | でも田中なんだろ。 |
B | おまえの相手のそれも田中ということか。 |
A | 俺の相手のそれも田中だ。同じような格好をしてるし、もしかしたら。 |
B | たいへんだ。 |
A | どうした。 |
B | 同じような格好をしているせいで自分がどっちかわからない。 |
C | 馬鹿な。 |
A | いくらなんでもそれはないだろう。 |
B | どっちが最初のたなかだ!? |
A | 最初?えっ。 |
B | 最初「誰だっ!」って言ったやつだ。 |
A | ……。 |
B | ……。 |
C | お、おい。 |
A | 俺は誰だ!どうしよう自分がどっちの田中かわからない!! |
C | 自分のことぐらい覚えておけよ! |
B | なんで同じような格好してるんだよ! |
C | ちょっとまて、混ざるな。またわからなくなる。 |
A | あ、ああ、でも、少なくともおまえは俺たちとは関係がないんじゃないのか? 格好が違う。 |
B | おまえの相手がこんな格好だったか覚えてるか? |
C | わからんそれよりも。 |
A | ? |
B | ? |
C | 実は俺も田中なんだ。 |
Aは地面に手を突いて頭を垂れる。 Bは膝を抱えて座り込む。 Cは背中を向けてうつむく。 |
C | ごめん。 |
A・B・Cそれぞれ踊りながら |
A | たなか |
B | たなか |
C | たなか |
第一部終了 |
たなか | 僕は田中、田中だ、それだけでああ、なんてすばらしいのだ 僕は田中なんだ、それはぜったいにかわらないし、ほんのささいでつまらないことだ ぼくが田中だっていう以外になんの意味もない。ちっぽけでとるにたらないうちゅうとくらべたらくだらないことだけどだけどどうしてこんなに、ああ、こんなにすばらしいんだろう、それだけでぼくは、いきていたいとおもう。 |