TOPに戻る
2部へ

Purin

1部 命とプリン

1 2 3 4

鍵をガチャガチャ回して家に入って靴を履いたまま階段を上がってランドセルを部屋に投げ込んでから12段ある段差を一気に飛び降りてバランスを崩して倒れこんだついでに靴を足から外して玄関に放ってその間に段差を一気に飛び降りたことによって生まれた落下の衝撃による痛みが癒された両足でステンレス製の床を踏みしめて転ぶか転ばないか衝突するかという絶妙なコーナリングを家を出たときから半開きのままの玄関と台所を繋ぐ扉の隙間で展開しつつ、 そいつをしまった場所を頭の中で忠実に再現して最速捕捉ルートを考え目の前の冷蔵庫を開けて実践した。 即ち手前のニボシを左手で除け右手で牛乳パックをどけてからニボシを手首のスナップのみで上空へ打ち上げ、落ちてくる前にマイプリンアイワントイットザッツワンダァフルティングを猛烈な速度で左手に収めて我が身に秘められた第三の手でストライクゾーンに舞い戻ったニボシを誰も知らぬ賞味期限切れの冥界へと打ち飛ばし牛乳を戻してから右胸のポケットに常備しているマイスプーンで例のものをおいしくご馳走様冷蔵庫を閉めるのも忘れずに☆ 僕は満足して台所から去ろうとするだが待て何かが変だ。不自然だ。 何もおかしいことなんてないとジョニーが言う。待ってくれ相棒、今考えるから。何がおかしい?そう、僕はなにか忘れている。何を?冷蔵庫のドアを華麗に閉めた。それがおかしい。どうして?aha!何かを仕舞い忘れたんだ。でも何を?ニボシの袋は迷宮の中だしスプーンを仕舞うのは食器棚だぜ相棒。 僕は振り返る。答えが出る前に見つけた。 冷蔵庫の前で牛乳がこぼれている。紙のパックからドックドックと溢れ出た牛乳がアルミホイル製の床を白くデコレーション。なかなか綺麗じゃないか。hmm。そんな場合じゃない。 僕は笛を吹いて犬を呼ぶ。ポチと言う名の柴犬は僕が笛を吹くとすぐに駆けつけるさあ、これをどうにかしてくれ。 ポチが床の牛乳を舐めることでこぼれた牛乳に「ポチが舐めるため」という存在意義を与えることに成功した僕は神になった気で牛乳のパックを拾った。拾うときにまた牛乳がこぼれて床にはねた。 なぜ牛乳が床に落ちていて床は牛乳でデコレーションされているのか思い当たる節はあるが僕の理性の崩壊を妨げる何者かの工作によって辿り着いたはずの節に大きな穴が開く僕はまた次の節を探して思考の海を彷徨ってときどきくらげに刺される 「イテッ!」 声に反応したのか知らないが柴犬がバシャバシャアホみたいに牛乳を撒き散らして僕のズボンが汚れた。汚れたズボンと引き換えに僕は答えを手に入れる牛乳のパックを持った右手とスプーンをもった左手、食べ終わったプリンは?スプーンは汚れてない。 僕は気付く気付いてしまう僕はプリンを食べていない食べたと思ったのはデジャブのせい、プリンがない。 冷蔵庫を開ける、プリンは名前を書いてからししゃもの袋の上に乗せたイェスタデイ冷蔵庫の中にプリンがないそのことを告げる観察眼。 「そうか!ししゃもの上じゃなくてしゃもじの上においたんだ!」 <僕はひらめく。 なんだってこんな簡単なことに気づかなかったのか愚かな自分を恥じて顔が赤くなった。 しゃもじはどこだろう、炊飯器の横だ。プリンは?しゃもじの上。無い。あるわけがない。 しゃもじの上にプリンを置いた記憶はないし、永遠に置くこともないだろうWEEEEERYYYYYYYYY!!!!さけぶさけぶさけぶさけぶ窓がガタガタガタガタガッタガタ揺れて鳴って僕の頭の中ではきっと豪雨強風が吹きつけ雷鳴が轟いている轟いた雷鳴がプリンを見つけ出してくれるのならそれでいい、そんなことはないから自分で探さなければならない探すために落ち着け自分今しばらく怒りを留めよう。「プリンがないとすれば考えられる可能性は一つしかない」誰かが僕のプリンを冷蔵庫から奪って……。シルエットが下品に舌を鳴らして僕のプリンを貪る姿が脳裏に浮かぶ怒りがまた湧き上がる「WEEEEEERYYYYYYYYYY!!」落ち着くんだジョニー!怒りを全て犯人を捜す力へと変えるのだそして報復のそのときに。 プリンを誰かが食べたとすればそれは誰だ、容疑者が多すぎる。犯人はいつプリンを奪ったのだろう犯行は僕がプリンを冷蔵庫に仕舞った昨日の夜から今日僕が家に着くまでの間ということになる。 いや、今日の朝僕は冷蔵庫を開けた。そのときプリンはあっただろうか。あった。確かにプリンの入れられたプラスティックの光沢が僕の記憶に保存されている間違いない。つまり犯行が行われたのは今日の朝7時頃から僕の帰宅3時40分までの間。だから学校の奴らは僕のプリンを奪うことはできない。 平日朝7時〜3時40分自由に活動できる人間……暇な大学生、無職、売れない作家、この中に犯人がいる。どうやって絞り込もう。 犯人は現場に何か証拠を残してはいないだろうか、特徴的な長い髪や売れない作家の原稿でも落ちていれば……ふと思い当たることがある。でもそれがなんなのか思い出せない。僕の推理に何かおかしなことが、相棒。こんなときに限ってジャックは口を利かない。おい、いるのか相棒。わかった、玄関だ。 僕は台所を離れて朝から半開きのドアの隙間をすり抜けて玄関に行く、ステンレス製の床に僕の靴跡が点々と刻印されている。僕は足でそれを擦って消す。靴下は紺だから汚れは目立たない。靴跡は階段を通って二階まで続いているけど今はそれどころじゃない。

1 2 3 4

アルミホイル製の床に無造作に置かれたノートが嫌でも目に入る僕のノートだ。ノートには紙が張ってある汚い字で。僕の字も汚いがそれでも僕が胸を張って汚いと断言できるほど汚い字がちぎったノートに並んでる『ノートありがとう 采籐』采籐に僕が貸したノートだ。 ノートの表紙には僕の汚い字で名前も書いてある『井上だいき』おいおいまさかこのメモは僕のノートを破って作ったものじゃあないだろうな中身を確認。3秒かけてめくった限り破れたページは見当たらないこんなことをしている時間はないのだ 「どうして采籐が僕のいない間にノートを僕の家に届けられたのだろう」 喉まででかかった答えが僕の良心と戦っているかまうものか「采籐が僕のプリンを盗んだ可能性は?」采籐は今日どうだった?僕が教室になだれ込んだ8時29分には既に采籐がいて白い歯を輝かせて僕に笑った「おはよう」「おはよう」僕も答える。 采籐は足が遅い。そもそも僕が帰るより前にノートを届けられるはずが無いんだ。それは学校の生徒全員について言える。僕の学校の生徒は全員僕より足が遅い。 それに采籐は役員会議で帰るのも遅くなったはずだ。 采籐は動物委員だから井上さんが学校に寄贈したアザラシのことで先生数人を交えて長い間話し合わなければならなかった。その点僕は図書委員だったので書記の係りを山田君に代わってもらいすぐに帰宅した。山田君はいい奴だ。話が脱線した。ともかくプリンを取ったのは学校の生徒じゃない。 「あれ?」僕はすぐ違和感に気づく。 采籐はノートを届けることができない。プリンを取ることができないならノートだって同じだ。つまりこのノートは采籐以外の人間がここに届けたということになる。一体誰が?それに、どうして采籐の名前を?こういうのはどうだろう。犯人は学校の生徒だった。そして、プリンがなくなったら自分が真っ先に疑われるような立場にある。そのため僕のノートに「采籐のメモ」を付けて玄関に置いた。僕は采籐を疑い、犯人は罪を逃れる。采籐のメモがなければ僕が真っ先に疑うようなヤツ。そして采籐を知っている。井上?いや、井上のはずがない。あいつはいいやつだ。でもどうしてあいつの名前が真っ先に浮かんだのだろう。何か根拠があったはずだ。 僕は僕の思考回路を見渡して井上の名をアウトプットした詳細を希望する「あいつはアザラシを寄贈した」突然。でもなぜ?あいつは知っていたんじゃないだろうか。アザラシを寄贈すれば動物委員である采籐は役員会議のある今日必然的に帰宅が遅くなる。そうすれば、采籐は疑われずに済み……だめだ。アザラシを寄贈したのが采籐ならばアリバイとしての効果があった。あるいは、井上が盗みに入るのが采籐の家ならば・・。井上と采籐がグルだとすれば?違う違う!それじゃあどうして采籐からのメモがここにあるんだ! そもそもこのメモは誰が書いたのだろう。采籐本人が書いたものを誰かが? 僕はもう一度メモを手にとって良く見る。 采籐の字に見える。でももしかしたら違う誰かの字かもしれない。 ノート、ノート。僕はそもそも誰にノートを貸したんだっけ。采籐だ。なら、采籐からノートが返ってくるはずで、このメモを書いたのが采籐だとしてもなんの違和感もない。 僕が教室に入ったとき、既にほとんどの生徒がそこにいて、遅刻者はいなかった。「井上、ノート貸して」「ノート?采籐に貸しちゃった」「じゃ、采籐から借りていい?」「うん」頭がフル回転する。五感はシャットダウンされ蝉の声もステンレスの光沢もうなだれる暑さも何も何も感じない。結論だけが頭の中でぐるぐるぐるぐるまわってあっちへいったりこっちへいったりしながら僕がその根拠を必死で探そうとするのを邪魔する。僕は頭をリフレッシュする。「僕ははやく帰った。誰よりも早かったと行ってもいい。つまりこのノートを届けたとすれば朝、登校する前」僕よりも遅く登校したヤツがいてそいつは采籐からノートを又借りする約束を僕に取り付けたヤツと同一人物でそいつはプリンが好きで給食にプリンが出たとき余ったプリンを自分のものにすべくジャンケンに参加する男子の中にいつもいつも含まれていていつもいつも僕はそいつとプリンを奪い合う戦歴は五分五分名前は「山田都」書記を代わってくれた図書委員の山田君。 僕は信じられない。 信じられないから信じなくて済む理由を探そうと必死で頭を使うけど見つからない山田君が僕のプリンを取った?オイオイ嘘だろ、嘘って言ってくれよジョニー。じゃあ山田君は僕が早く帰りたかったのは委員の仕事をサボってまで早く家に帰りたかったのはプリンを食べるためだと知っていてそのプリンを自分が取ったから今家に帰ってもプリンがないことを知っていてそれなのに僕の代わりに書記を引き受けて僕には何も言わずにいたって言うのか嘘だそんなはずはない。あいつがそんなことするわけがないあいつはいいヤツなんだ……。僕は知ってる。山田都がそんなにいいやつじゃないこと。表では(あるいは僕の前では)いい顔をしているけどときどき恐ろしいことをするやつでそれはなにかのはずみでしてしまったというよりむしろなにかのはずみで彼の本性を隠していたものが消えてしまったというような感じでもし彼が井上の寄贈したアザラシを故意に殺してしまったとしても僕を始め彼を知る人間は皆きっと驚かないだろうというほど彼はある意味恐ろしいヤツでだけどまさかそんな山田君が僕のプリンを取ってそれを采籐のせいにするなんてそれでいて平気な顔をしていられるようにそんな酷いヤツに僕は思えて仕方が無いけれどそれを認めてしまったらそれは僕の中の何か決して侵してはいけない領域が跡形も無く汚されてしまうのと同じことのように思えて僕はぎりぎりの線でマイピュアハートを守り切ってこのまま全てを忘れてしまおうと思ったけれど僕のプリンへの愛がそうはさせなかった。 全てを忘れるということは僕のプリンを忘れるということでそれは僕のプリンを裏切ることで僕を裏切ることで四の五の言わず僕にそんなことはできなかった。ただ僕は「絶対に取り返してやる」と声に出して言ってみることで山田はまだ僕のプリンを食べていないと思い込みどこかで救われていた。 僕は、ぼくはぼくはぼくはさっきまで胸の中で身体の奥で全身の筋肉のすみずみでうろついていた怒りを憎しみを思い出すそれはついに目標を見つけて怒りをぶちまける対象を見つけてロック・オンした追尾ミサイルの如く今こそ爆発しようと僕を昂ぶらせたが山田を見つけてこの拳で捕らえるまでそのときでないと言ってまたそれまで怒りや憎しみの衝動を僕に手の届かない上空三千メートルまで打ち上げた。僕は感情の昂ぶりがあまりに急激に冷めていったので憎しみがこのまま消えていってしまうのではないかと恐れたがふと山田のことを考えると物陰に隠れていた黒いものがその巨大な全貌の一部を僕に見せてくれたので安心した。

1 2 3 4

彼はまだ学校にいるだろうか図書委員会は長いとは言えないが短いとも言えないそれに僕は彼の住所をしらないどっちみち学校へいかなくてはならない。僕は急いで家を飛び出して自転車に乗った。学校への通学に自転車は使用禁止だから僕は毎日歩いて通っている20分で学校につく自転車に乗ればもっと早い。僕は全力で足を動かしてペダルを回して4回車に轢かれそうになりながら6分で学校へ着いた。自転車を校門の前に止めて鍵を掛けずに校舎へ走った。生徒玄関はガラスの扉で閉じられていて僕は自分が思っていたより長く家にいたことを知った。ガラスの扉をガチャガチャやると鍵が外れることを僕はしらなかったのでどうしようか考えていると采籐君がドアの向こうから歩いてきて僕は言った。「采籐、山田の住所知らないか」「あれ、なんでいるの?」「いいから、山田の住所。あ、図書委員会もう終わったよな」「多分。」采籐君は靴を履いて扉の鍵を開けて外に出て扉をガチャガチャやって鍵を閉めるまでは僕が何を言っても住所を教えてくれなかったが住所を言う代わりに何かわけのわからないことをぶつぶつ呟いていた。「交差点のコンビニから、右行ってまっすぐ行って2本目で左曲がって横の細い道に入って公園の前で右曲がってすぐ左曲がってまっすぐ行って信号を右曲がってそこの横のところの上のほうの四角いやつが見えたら右に入って3軒目の黒い建物がそうだよ」僕は采籐君のランドセルからノートと筆入れを勝手に取り出して地図を描いてくれるように頼んだ。采籐君はわけのわからない図形といくつかの暗号文をノートに書いてそれを破って僕に渡した。「采籐君、僕だって君のことを信じたいのは山々だけどさすがにこんなものを渡されてどうすればいいかわからないよ。君は僕にこれを渡してどうするつもりだったんだい。一体僕に何を求めているんだ」

「何言ってるんだよ」采籐はグルだったのだ!きっと僕が山田の家に行く時間稼ぎをするつもりだ。僕は踵を返して校門へ向かい自転車に乗ってとりあえず走り出した。走りながら采籐に渡されいた図形と暗号の謎を解くのに1時間かかって山田の家が自分のいる場所と正反対であることを知った。僕は今来た道を引き返して学校まで戻ってそれから交差点のコンビニから北を向いて右に行ってまっすぐ走った。くそ、山田はもう僕が来ることを知って逃げ出したかもしれない。急がなければならない。身体は限界だった。僕は限界の2倍で自転車を走らせた。

山田の黒い家の前に着いたとき僕は井上に引き止められた。僕が行こうとしても井上君はしきりにガンダムの話をした。井上を黙らせて黒い家のチャイムを鳴らそうとしたとき知らない人が僕に道を尋ねた。街中の人間がグルになって山田を守ろうとしている。僕は無意識にそのことを悟った。構うものか。「山田ァ!」僕は叫ぶ。この住宅全域に響くような声で叫ぶ。「山田都!」僕の怒りが、渦を巻いて、僕の身体を、取り囲む。僕は全身全霊を込めてチャイムを押して誰かが出てくる前にドアを開けて山田の家に入ったが山田都はいなかった。家には誰もいないようだった。僕は法によって裁かれることを覚悟で家に上がりプリンを探した。それはどこにもなかった。僕は間違ったことをしているのだろうかもしかたら山田はプリンなんか盗んでいないんじゃないかそのとき携帯電話が鳴った。僕のではなく山田の携帯電話がリビングの机の上で最近はやったポッポスを演奏している僕は携帯電話を手にとって通話ボタンを押した。電話の相手は山田都だった。

1 2 3 4

山田都はプリンを盗られた井上大樹がプリンへの愛情によって自分を殺そうとしていることを知ったそして彼が自分の家へ辿り着く3時間前にあらゆる手段で家から逃げ出したのだ彼は今オワフにいた。電話機から飛び出したプラスティックのボタンを人差し指でプッシュする一つ一つ正確に、番号は2時間掛けて暗記した自分の携帯電話へ繋ぐテレフォン・ナンバー持っているのは井上大樹――日本の自宅で怒りに震えながら今通話ボタンを押した。井上も山田も冷静を装う相手に弱みを握られてはいけない一度だけ深呼吸それから「やあ、井上くん」井上は押し殺す今にも携帯電話を破壊しそうな怒りをそして山田都という男から感じる理由のない恐怖を同時に押し殺す携帯電話から聞こえた声はまるで巨大な蛇のように蛇は体内に滑り込んで内臓を飲み込んでいく一つづつ飲み込んで僕は眼球になる心臓の音を誤魔化すように「ふふふ」僕は笑うまるでおかしくなったようだしかし山田は恐怖していたもしかして井上以上に、恐怖したはずの井上は笑っているこの状況で笑っている冷静を装ったはずの自分の言葉を嘲るように笑っている!山田は自分も笑うことを考えるしかしそれは誤魔化しでしかない彼は決める自分の言葉をそして吐き出すさっきよりもさらに冷静な声で「僕はいまオワフ島にいるんだ」決める。これが決める山田と井上の距離をそして勝敗を、井上は知る自分と山田との絶望的な力の距離をそして彼は負けた「っなんだと!!」その叫びは山田の黒い家で虚しく勝利を確信したオワフの一室で山田の耳に。口に笑いを湛えて「ハッハッハッハッハ!君は間に合わなかったということだ」笑う山田は笑う大声で笑う聞いたことも無いような笑い声が自分の口から出て耳に入る笑うなぜなら彼はここへは来れない井上は行けない誰もいない山田の家で電話越しに山田の笑い声を聞きながらだけどなにもできない。井上は、僕は、僕は敗北を悟ってこの敗北が僕の死を決定付けることを知ったそして全てのチャンスを山田が掌握していることを「僕が、プリンを食べなければ僕が死んでしまうことを知っているのか!!」言ってから気づく。気づいてしまう。沈黙ではない間をそこに投入した山田の発言が全てを物語っていると気づいてしまう。こいつは知っているんだ。「僕を殺す気なのか」僕は、負けた。ずっと前から負けていた。いや、山田都というその人間がこの世に生まれたときからこの敗北はすでに決まっていたのだ。僕はどう足掻いたってどれだけ速く自転車を漕いだってプリンを取り返すことはできない定められた敗北を覆すことができない僕は泣いて懇願する、泣いて懇願する側に回ったからだ。





ページの上空へ


2部へ
TOPに戻る